環境人間学部 環境デザイン系の奥と申します.専門は気象学・気候学です.地球温暖化をはじめとする気候変化が避けられない状況と言われています.温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑える緩和策だけでなく,すでに起こりつつある温暖化への影響に対し災害や社会のあり方を調整する適応策の導入が検討されています.台風をはじめとする暴風雨などの激しい気象から日々の暮らしにおける穏やかな気象まで,様々な現象のメカニズムを解き明かし,その将来予測と私たちの生活への影響について調べています.
学生さんの卒業研究を一例として紹介します.地理的な要因によってその地域の特有の風が吹きます.それが局地風です.滋賀県の琵琶湖の西側地域では比良山系からの「比良おろし」と呼ばれる局地風であり,時として最大瞬間風速が50m/s以上に達します.この強風による影響を受けて琵琶湖の西岸を南北に走るJR湖西線は運転見合わせとなることが少なくありません.ここで紹介する研究は,実際に運転が見合わされた事例を対象にそのメカニズムを調査した内容です.
比良おろしに限らず様々な気象はその三次元的な構造が時間変化することで発生します.これらの全容を気象観測だけで把握することは難しいので,物理の法則に基づいて気温や風の時間変化をコンピュータで計算する気象の数値シミュレーションを利用します.計算結果を可視化することで原因を探っていきます.図2と図3はクリックすることで風の時間変化のアニメーションをご覧いただけます.
週1回の研究室のセミナーにおいて持ち回りで発表を担当します.3年生の前期は,それぞれが興味のあるテーマに関連した学術論文の文献紹介を行います.3年生の後期以降と4年生は,それぞれの研究内容の進捗を報告します.気象学・気候学では様々な物理量(レイヤー)の空間(地理)情報を扱いますので数GB,研究対象によっては数TBのデータをさばくことになります.このとき必要となるプログラミングスキルの基礎は3年生の前期の演習の時間で学びます.気象学は数学と物理学を基礎として発展してきましたので,いわゆる「理系」の分野になりますが,研究室には高校で物理を履修していなかった方や「文系」の方もいます.
3年生の早い段階から研究に取り組むことで,本格的な就職活動をする頃には卒業研究の骨格ができており,自信を持って採用プロセスに臨むことができます.また,学会で発表される4年生もおり,目標を立てて研究を進めることができます.気象学・気候学を題材としてプログラミングを用いることで,社会人として必要なデータの整理(見方),解析(読み方),可視化(伝え方)のジェネリックスキルの向上を目指します.
・兵庫県の日本海側地域におけるフェーン現象の事例解析
・中学校理科における雲の発生過程を学ぶための教育コンテンツの提案
・住環境の視点から見た地域気候の将来変化
・京阪神地域の都市が局地的大雨に与える影響に関する事例解析
・気象庁観測データで見る兵庫県播磨地域の気候特性
・大規模アンサンブル気候予測データベースを用いた梅雨期の将来変化
・海風が大阪湾沿岸都市域の暑熱環境に与える影響評価
・領域気象モデルを用いた琵琶湖がもたらす暑熱環境への影響の評価
・領域化学輸送モデルを用いたPM2.5輸送過程の事例解析
・湖西線の列車運行に影響した強風事例の解析
・日本における太陽光発電・集中太陽熱発電の地球温暖化による将来変化
・領域気象モデルを用いたため池が周辺地域の気候に与える影響評価の試み
・降水指標でみた土砂災害発生リスクの将来変化
・暑さ指数WBGTでみる大阪の暑さの長期変化傾向
・シベリア森林火災由来レボグルコサンの輸送過程の検証
・1991年19号台風を対象とした大阪における可能最大風速の評価
・伊勢湾台風を想定した台風経路と姫路での風雨との関係
・次世代気象衛星ひまわりでみる大阪市のヒートアイランド現象
気象観測システムの構築・保守・運用,および数値シミュレーションによる環境調査を行う気象コンサルタントや環境コンサルタントの企業へ,あるいは公務員として気象庁へ採用されています.卒業研究で培われたプログラミングスキルを生かして,様々な分野のIT関連企業へ就職される方もいます.いずれの進路も多くは技術職としての採用です.さらに専門性を高めるべく大学院へ進学する方もいます.